私たち日本ソーシャルワーカー連盟(以下「JFSW」という。)は、さまざまな要因により生活上の困難を抱えた方(以下「クライエント」という。)の権利擁護と社会福祉の増進を共通の使命とするソーシャルワーカー4団体によって構成された連合組織である。2022年12月、北海道江差町の社会福祉法人あすなろ福祉会(以下「同法人」という。)が運営するグループホームにおいて、知的障害のある入居者に対して不妊処置を強制していたとの報道がなされた。報道を受けて北海道は同法人に対して2022年12月から障害者総合支援法に基づく監査を実施していたが、この度、2023年6月21日に同法人に対して運営改善を求めた指導をするに至っている。

北海道の監査結果によれば、「入居者への結婚や同居等に関する意思決定支援は不十分、かつ入居者からの相談の記録等が残されておらず、その運営には改善が必要」とされたものの、入居者20人のうち13人に対して行われた不妊手術について「強制」があったという事実は確認できず、利用者は自らの意思で処置を行うか否かを決めていたとしている。私たちソーシャルワーカーはこの北海道の監査に注視してきたが、今回の結果に加えて「意思決定支援が不十分」という事実は、その背景にサービス利用の選択肢がないという過疎地域ゆえの課題とも相まって、利用者が生きていくために法人側からの提案を受け入れざるを得ないという「選択不可的半強制性」の存在が危惧されることから、以下に見解を述べる。

JFSWに加盟するソーシャルワーカー4団体所属のソーシャルワーカーは、クライエントの意思を最大限に尊重し、本人の「自己決定」を保障する専門職であることを倫理綱領に掲げており、同法人の対応や同法人の理事長が「障害者が出産を望んだ場合はうちは支援できない」と公言していた事実は、利用者の自己決定を脅かす事態であり遺憾に堪えない。障害福祉サービスを提供する事業所は、厚生労働省が策定した「意思決定支援ガイドライン」(※)に沿って利用者への「意思決定支援」を推進することが求められており、それが「不十分」であったとされたことを同法人は真摯に受け止め改善に努めるべきである。

障害者権利条約では、「障害のある人が当事者の自由かつ完全な合意に基づき婚姻をし、かつ、家族を形成する権利が認められること」(第23条1(a))を明記している。これは誰もが有する当たり前の権利であり、社会福祉事業の運営者がこのことを蔑ろにする行為は決して許されない。

一方、今回の不妊治療をめぐる一連の報道に対して、インターネット上で障害者の結婚や出産、育児等についての差別的・否定的な発言の匿名コメントが後を絶たず、その一言ひとことが多くの障害当事者や家族を傷つけている。

私たちは、人びとの間に存在する内なる優生思想や差別意識にも真摯に向き合い、障害者の性や子どもの権利についての議論をさらに深めていく必要がある。なお、私たちソーシャルワーカー自身が、クライエントの結婚や出産を心から祝福し、その後の子育てや生活を本気で支援することができているか、誰もが障害者の結婚や出産、子育てを応援できる環境作りのために何をしているのか、と自問するべきである。

また、クライエントやその家族の権利を保障するために、地域のなかで必要な社会資源を創出することにより、どこに住んでいても人生の選択肢を広げられるような働きかけをしなければならない。今回発覚した事態が一法人に起きた固有の問題のみならず、地域全体、そして現代の日本社会全体の課題であるとの認識に立つ必要がある。

日本に生きるすべての人々の生命や尊厳の尊重と、それを育むことのできる家庭、地域社会の実現に向けて、私たちJFSWは今後も関係機関、関係団体、当事者や家族との連携の下に精力的に取り組む所存である。

2023年8月8日

日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)

公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島 善久
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村 綾子
公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会 会長 野口 百香
特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 保良 昌徳

(※)「意思決定支援ガイドライン」によれば、意思決定支援とは、『自ら意思を決定することが困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、支援を尽くしても本人の意思及び選好の推定が困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために事業者の職員が行う支援の行為及び仕組み』のことをいう。