【基調講演】

ソーシャルワーク・教育・社会開発合同世界会議がアイルランド、ダブリンのRoyal Dublin Societyにおいて7月4日から4日間の日程で開催されました。会議のテーマは、「持続可能なコミュニティと環境/進化している社会における人間の解決」です。99か国から2,063名が参加した大きな大会で、日本からも100名参加で、国別では6番目でした。紙幅に制限がありますので、ここでは、基調講演に焦点をあわせた報告をさせていただきます。

会議場Royal Dublin Society の外観

アイルランド共和国第7代大統領のメアリー=ロビンソン氏は、気候変動の防止協定(パリ)の取り組みの重要性を確認しつつ、気候変動が、被害にあえいでいる人たちの強制移住を招いている点を指摘しました。そして、その要因は、私たちの暮らしにあり、そのことによって一部の人びとが被害を受けるという不公平さに加え、この人びとに自己決定が認められていないことが問題であると断定します。さらには、本人の暮らしに影響を与える意思決定に彼らが参加できないことと併せて、特にそこにおける女性の自己決定の尊重がなされていないことにまで言及しています。まさに、多様性の尊重が求められていると。

基調講演の様子

ロビンソン氏の講演は、特に日本におけるソーシャルワークに衝撃を与える内容でした。つまり、気候変動における問題は完全なる人災であり、さらに言えば、他の自然環境問題の要因をつくっています。この点において、日本は完全に「加害者」なのだと改めて実感しました。加害の側から社会を変革することが難しいとしたならば、被害の側から社会を捉えたソーシャルアクションが求められているのでしょう。

その他、基調講演で共通項として見られたのは、社会変革・対話・政治的関与の重要性でした。ダブリン8区のFatima地域の再活性化に尽力したアイルランドのJoe Donohoe氏は、住民の主体形成の取り組みに対して「自分たちの尊厳に対する自覚と他者との尊厳の相互尊重されなければ人間の主体性は生まれない」と語り、ザイード大学(UAE)のVishanthie Sewpaul教授は、「ソーシャルワーカーは文化的に対話で挑戦できる人たち」であると同定していました。またイギリスのVasilios Ioakimidisは、「ナチズムなどの独裁主義に対して何千人ものソーシャルワーカーが立ち上がった」歴史がある一方で、ナチスドイツに加担したことや、植民地化においてもソーシャルワーカーの関与があったことを確認し、そのうえで、ソーシャルワーカーが政治的な抑圧に加担する形で存在していた歴史に目を向けるべきだと論じました。であるがゆえに、「現在を変えるためには過去から学ぶことが必要」であり、「社会、地域における迫害への加担に対して、その歴史に対して謝罪するということ。謝罪をするという重要な第一歩を取る必要がある」と声高に主張しました。この過去への謝罪という発言に対して、会場からは拍手の渦が巻き起こっています。さらに「自分たちをテクニカルな政治的に中立な職業であると自覚すればするほど」、職場のなかでソーシャルワークの価値が発揮しづらくなるため、「理想的な政治的位置を考えながら、われわれの仕事のなかで、ソーシャルワーカーの政治的な活動・団結・結束、さらに国際的な結束が重要」であり、「国による暴力をゆるさないためにも、ソーシャルワーカーが国のメインストリームに入り込む必要がある」と政治的アプローチと同時に政府のなかに入り込むことの重要性に言及しています。他方で、その参画のあり方として、「正義・平和・過去との対話・調和を行う必要」があり、「それがなくして平和はあり得ない」と断じました。

会議場内の様子

最後にご紹介したいのは、ラテンアメリカ・カリブ海地域の会長であるLarry Alicea氏による講演の要旨です。Alicea氏は、「対話が、社会的な変化を達成するための道具」であることを前提に、マクロレベルでソーシャルワークを捉え、「資本主義の悪魔」や「グローバリゼーションによる植民地化」に抵抗しなければならないと語ります。そして、その抵抗のために「考えなければならないのは政治的な様式」であり、「抑圧する側ではなく抑圧される側からソーシャルワーカーが生まれてこなければならない」と力説し、「資本主義に反するソーシャルワーカーが非常に重要なソーシャルワーカーである」と括りました。

以上みてきたように、国と地域によってソーシャルワーク実践のあり方は様々ですが、やはり、グローバル定義の根幹をなす社会変革についての言及が非常に多く見られました。他方で、実態が明確でない社会変革では、その実効性が疑われるため、社会変革の内実をさらに詰めていくことが、これからのソーシャルワークにおける国際的な課題でもあると受け止めました。

【分科会・社会見学・交流会】

社会見学の様子

本会議では、基調講演に引き続き、7月4日から7日まで、終日分科会(口頭発表)・ワークショップ・シンポジウム・ポスター発表等2,000件近くの発表があり、どこの会場でも活発な議論が繰り広げられました。分科会は、「環境と持続可能な開発との関係」「ソーシャルワーカーの国連持続可能な開発目標到達への役割」など、15のテーマに分かれていました。日本からも多くの発表がありました。会議では、紙媒体は一切ないという警告でしたが、実際に各分科会会場に行っても、入り口に発表者の名前も何もありませんでした。インターネットを使って、各自で調べて会場に行く方式でしたが、そうしたことに慣れていない者としては、戸惑いもありました。

晩餐会-アイルランドの民族音楽と踊り

7月5日の午後は、社会見学があり、児童家庭・環境・精神保健・病院など12ヵ所に分かれて、アイルランドのボランティアのソーシャルワーカーに案内されて、バスで社会福祉機関を見学しました。見学したその一つは、アイルランドに以前からいるtravellersとRomaという2つの民族の支援をしているPavee Pointという機関でした。彼らは、ジプシーのように常居所を持たず転々とし、定職もなく、健康などに問題があるため、支援の対象となっているそうです。初めてこうした民族の事を知り、地域でそうした民族の人々を地道に支援しているソーシャルワークを学ぶことができました。

晩餐会でIFSW新会長Silvana Martinez‐右から3人目‐等と)

交流会は、一日目の7月4日夜に簡単なオープニング・セレモニーがあり、7月6日夜に晩餐会がありました。アイルランドの伝統音楽に合わせ、「リバーダンス」という、足を踏み鳴らす熱気ある踊りが披露され、会場を沸かせていました。また、恒例の「ジェーン・ホーイ・オークション」が催され、各国から提供された品物がオークションにかけられ、次回の世界会議に途上国のソーシャルワーカーを招聘する基金が作られました。

次回の世界会議は、IFSWはIASSW(国際ソーシャルワーク学校連盟)と分かれ、独自に2020年7月15日からカナダのカルガリーで開催される予定です。

(文責:国際委員会)