私たちは、平和を擁護し、社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重および全人的存在の原理に則り、人々がつながりを実感できる社会への変革と社会的包摂の実現をめざす専門職であり、多様な人々や組織と協働することを言明する組織です。

広島地方裁判所は2020年7月29日に原爆投下後に放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びて生じた健康被害による被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法とし、処分の取消しを求めた訴訟で、70~90代の男女84人(うち9人は死亡)全員の却下処分を取消し、被爆者と認めて手帳を交付するよう命じる判決を言い渡しました。

この判決では、黒い雨に放射性微粒子が含まれ、直接浴びる外部被曝に加え、井戸水や食物の摂取における内部被曝が想定できると指摘されており、原告らの被害主張は信用できるとしています。また原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)(以下「法」という。)が「原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と定める3号被爆者に該当すると断じています。この判決によって、75年の長きに渡って「黒い雨」による健康被害にさらされながらも、制度的支援の対象外に置かれてきた人々への支援の道が開かれることが期待されましたが、被告である広島市と広島県は、国の要請を受け、この判決に対し、控訴する方針を決定しました。

法の前文においては、「被爆後五十年のときを迎えるに当たり、我らは、核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし、原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう、恒久の平和を念願するとともに、国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策」を講じることが明記されています。

また、調査に基づくと言われている大雨地域の線引きは、そのことによって被害者を区分することとなり、実際に被害があっても制度からこぼれ落ちる人々が生まれる等の限界と弊害があります。私たちソーシャルワーカーは制度の狭間にあるこれら人々の生活課題に個別に向き合い支援します。広島では、これまでも「原爆被害者相談員の会」と医療・福祉機関等に従事するソーシャルワーカーが、長期間に亘る被爆者に対する支援等を展開してきました。

私たちは、ソーシャルワークの原理と実践の観点から、被害者の個々の声を真摯に受け止め、控訴に対して反対の意思を表明するとともに、終戦75年の節目を迎え、大雨地域の線引きを乗り越えて、現に健康被害がある方の1日も早い救済を強く求めます。

2020年8月21日

日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)

公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島 善久
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村 綾子
公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子
特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本 民夫