8月9日(日)開催の講演会「改正社会福祉法への参議院附帯決議の意義とソーシャルワーカー(専門職・団体)に求められる役割」でご講演いただきました二木立先生(日本福祉大学名誉教授・一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟相談役)より、講演内容の全文をいただきましたので掲載させていただきます。是非お読みください。※PDF版はこちらからダウンロードしてください。

改正社会福祉法への参議院附帯決議の意義とソーシャルワーカー(専門職・団体)に求められる役割

-「新福祉ビジョン」から改正社会福祉法に至るまで、社会福祉士・精神保健福祉士がいかに位置づけられてこなかったのかの跡付け

二木 立(日本福祉大学名誉教授・日本ソーシャルワーク教育学校連盟相談役)

はじめに-講演にあたって

私は、臨床医(リハビリテーション医)出身の医療経済・政策学研究者で、次の3つの心構えを持って研究しています。①医療改革の志を保ちつつ、リアリズムとヒューマニズムとの複眼的視点から研究を行う、②事実認識と「客観的」将来予測と自己の価値判断の峻別と根拠の明示、③フェアプレイ精神。

私は、長年、ドイツの大哲学者ヘーゲルの教え「何か偉大なことをしようとする者は、…自己を限定することを知らなければならない」を守って、医療経済・政策に限定した研究を行ってきましたが、政策研究の範囲・ウィングは少しずつ拡大し、介護(保険)や地域包括ケアシステムの研究も行うようになりました。2013年に日本福祉大学学長になってからは、社会福祉の勉強も本格的に始めました。

2015年に日本社会福祉教育学校連盟会長に就任してからは、長年の医療政策研究で身に付けた手法を用いて、福祉政策の分析も行うようになりました。最初に行ったのは、厚生労働省プロジェクトチームの報告「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現-新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン-」(2015年9月。以下、「新福祉ビジョン」)の分析でした(1)。それ以降、ソーシャルワーカーと関連の深い「地域共生社会」についての以下の3つの文書も、複眼的に分析しました:「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月閣議決定)、地域力強化検討会「最終とりまとめ」(2017年9月)、地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」(2019年12月)(2-4)。なお、地域力強化検討会と地域共生社会推進検討会のそれぞれ「中間とりまとめ」も分析しましたが、本日は省略します。これらの論文は、2017~2020年に出版した(する予定の)3冊の著書に収録しています。

私は、2017年6月の日本医療社会福祉協会全国大会の講演で、近年の医療・福祉改革、「地域共生社会」づくりはソーシャルワーカーにとって好機にもなるし、危機にもなると複眼的に指摘しました(5)。しかし、その後、地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」にソーシャルワーカーの記述がまったくないことに危機意識を持つとともに、ソーシャルワーカーの専門職団体がそのことに沈黙していることに疑問も感じました。この「最終とりまとめ」を受けて作られた改正社会福祉法でもソーシャルワーカーはまったく位置づけられていませんでしたが、同法への参議院附帯決議で、重層的支援体制整備「事業を実施するに当たっては、社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努めること」と記載されたことに、救いを感じました。

本日の講演では、私が2015~2020年に発表した4論文のソーシャルワーク、ソーシャルワーカーについての記述を紹介し、「新福祉ビジョン」から改正社会福祉法に至るまで、社会福祉士・精神保健福祉士がいかに位置づけられてこなかったのかを跡付けるとともに、改正社会福祉法の参議院附帯決議の意義について述べます。最後に、厚生労働省、社会・援護局はなぜ社会福祉士資格について<冷たい>のか?について、私見を述べます。

1.「新福祉ビジョン」の「新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保」の複眼的評価  (1)

第1の文書は厚生労働省プロジェクトチームの「新福祉ビジョン」(2015年9月)です。この文書は大変よくできており、今でも十分に読むに値します。この文書は3つの柱立てで、第1の柱「様々なニーズに対応する新しい地域支援体制」は、今回の改正社会福祉法で制度化された「重層的支援体制」に結実しました。私は「新しい地域包括支援体制」を、地域包括ケアシステムの対象の全年齢への拡大、または高齢者を対象にした地域包括ケアシステムと生活困窮者に対する自立支援制度の統合と理解しました。第2の柱「サービスを効果的・効率的に提供するための生産性向上」は、厚生労働省文書で初めて「生産性向上」・効率化を包括的、しかも学問的に正確に記述しました。そして、改革の第3の柱「新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保」は、事実上、今後のソーシャルワーク、ソーシャルワーカーとその教育のあり方について率直に提起しているので、ソーシャルワーカーと社会福祉系大学教員「必読」と言えます。「事実上」と限定的表現を使った理由は後述します。以下、引用文中のゴチック、①、②等は私が付けました。

(1)「基本的な考え方」
まず、(1)「基本的な考え方」の「新しい地域包括支援体制において求められる人材像」では次のように述べています。「新しい地域包括支援体制においては、限られた人的資源によって、複合化・困難化したニーズに対して効果的・効率的に支援を提供するため、①要援護者やその世帯が抱える複合的な課題に対して、切れ目ない包括的な支援が一貫して行われるよう、支援内容のマネジメントを行うこと、②複合化・困難化した課題に対し、個別分野ごとに異なる者がサービスを提供することが困難な場合もあるため、地域の実情に応じて、分野横断的に福祉サービスを提供できること、が求められる」。

さらに、「このような新しい地域包括支援体制を担う者としては、①複合的な課題に対する適切なアセスメントと、様々な社会資源を活用して総合的な支援プランを策定することができる人材、②福祉サービスの提供の担い手として、特定の分野に関する専門性のみならず福祉サービス全般についての一定の基本的な知見・技能を有する人材が求められる」とされています。ここまでは、ソーシャルワーカーの皆さんも異論がないと思います。

次の「求められる人材の育成・確保の方向性」は略して、その次の「中長期的な検討課題」では以下のように述べています。「新たな地域包括支援体制の基盤となる人材には、分野横断的な知識、専門性を有することが求められるのであり、こうした人材を育成・確保するためには、分野横断的な資格のあり方も含めた検討が必要となる」。この点については、2で述べる「ニッポン一億総活躍プラン」でより具体的に提起されます。

(2)「新しい地域包括ケア支援体制を担う人材の育成・確保のための具体的方策」
「新しい地域包括ケア支援体制を担う人材の育成・確保のための具体的方策」の冒頭の「人材の育成・確保に向けた具体的方策」では6つの方策を示しています。ソーシャルワーカー(団体)が一番注目すべきは、次の記述です。

「包括的な相談支援システム構築のモデル的な実施等」では、「専門的な知識及び技術をもって、福祉に関する相談に応じ、助言、指導、関係者との連絡・調整その他の援助を行う者として位置づけられている社会福祉士については、複合的な課題を抱える者の支援においてその知識・技能を発揮することが期待されることから、新しい地域包括支援体制におけるコーディネート人材としての活用を含め、そのあり方や機能を明確化する」。

(3)私の危機意識と福祉系大学の対応
私は「新福祉ビジョン」が発表された2015年には、日本福祉大学学長・日本社会福祉教育学校連盟会長だったのですが、この社会福祉士の記述に強い危機感を持ちました。というのは、社会福祉士についての記述はここ1か所しかなく、しかも、「福祉に関する相談に応じ、助言、指導、関係者との連絡・調整その他の援助を行」っている者ではなく、これらの業務を(法的に)「行う者として位置づけられている社会福祉士」=実際にこれらの業務を行っているとは明示しない、突き放した表現がされていたからです。日本社会福祉士会等が長年求めている「社会福祉士の任用拡大」については全く触れていません。第3の柱では「精神疾患」を持つ人々への支援について書かれているにもかかわらず、精神保健福祉士についての記述はありません!?そもそも「ソーシャルワーカー(ソーシャルワーク)」という用語もまったく使われていません。

それに対して、介護福祉士には3回言及しています。2014年10月にまとめられた「福祉人材確保対策検討会における議論の取りまとめ」もほとんど「介護人材」の確保について検討・提言していました。

日本社会福祉教育学校連盟元会長・現顧問(当時)の大橋謙策氏は、新著で、「新福祉ビジョン」について、「残念なことに、これらニーズ対応型のサービスのあり方が問われ、かつそれらを担う人材のことにも触れられているにも関わらず、社会福祉士、精神保健福祉士というソーシャルワーカーについてはあまり言及されていないのはそれらの職種が期待されていないからであろうか」と述べています。私も「新福祉ビジョン」を一読して、まったく同じ印象を持ちました。

ただし、日本福祉大学学長・日本社会福祉教育学校連盟会長としては、この記述を批判するだけでなく、「新福祉ビジョン」に対して、少しでも前向きな対応をすることが求められます。そこで、第3の柱から、(事実上のソーシャルワーカーに)「求められる人材像」は、(i)支援のマネジメント、アセスメント能力を持ち、(ii)分野横断的な福祉サービスの知識・技術を有し、しかも(iii)第2の柱で強調されているICTを駆使できる人材と読み解きました。ちなみに、第3の改革の項では、「分野横断的」という表現が5回も使われています。

私は、福祉系大学の学生が(i)と(ii)の能力を身につけるためには、社会福祉職と他職種との連携を体感できる「多職種連携教育」の導入・拡充が不可欠だと考えています。さらに、福祉系大学の教員自身が、自己の狭い専門の殻を破って、大学の内外で「多職種連携」の教育・研究・実践に積極的に参加する必要があると考えました。幸いなことに日本福祉大学は、日本で(おそらく世界でも)最初に1970年代から多職種連携教育を必須化(科目名「アセンブリ」)している藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)と2015年2月に包括連携協定を締結していたので、「新福祉ビジョン」発表後、日本福祉大学の教員と社会福祉学部学生が同大学の多職種連携教育に参加させていただいています。

福祉系大学がこのような改革を速やかに行い、上記3要件を満たす実力のある社会福祉士を多数養成すれば、社会福祉士の職域は大きく拡大し、高校生・受験生の福祉離れも克服できる可能性があります。言うまでもありませんが、以上の大前提は、福祉系大学の卒業生が、社会福祉士資格を取得することです。

逆に、福祉系大学がこれに対応できないと、福祉と福祉系大学の地盤沈下はさらに進みます。しかも、他の専門職(看護師・保健師、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、さらには2015年9月に制度化が決まった公認心理師等)が拡大した「福祉」領域にどんどん参入し、福祉系大学卒業生の就職難が生じる危険があると考えました。

以上については、2015年11月に開かれた第45回全国社会福祉教育セミナーの「緊急企画」等で、繰り返し指摘しました。

2.「ニッポン一億総活躍プラン」の施策で医療福祉関係者が注目すべきことー複数資格に共通の基礎過程の創設と「地域共生社会の実現」 (2)

次に、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億活躍プラン」(以下、「プラン」)の施策で医療・福祉関係者が注目すべきことを述べます。

「プラン」に初めて盛り込まれた施策で、当時、医療・福祉関係者にもっとも注目されたのは、「介護離職ゼロの実現」に向けた対応策⑨「地域共生社会の実現」(60頁)に、「医療、介護、福祉の専門資格について、複数資格に共通の基礎課程を設け、一人の人材が複数の資格を取得しやすいようにすることを検討する」、「医療、福祉の業務独占資格の業務範囲について、現場で効率的、効果的なサービス提供が進むよう、見直しを行う」と書き込まれたことでした。「新福祉ビジョン」では、「分野横断的な資格のあり方について、中長期的に検討を進めていくことが必要と考えられる」(20頁)と抽象的に書かれていたことと比べると、ずいぶん踏み込んだ記述です。この決定に基づき、特に介護福祉士と准看護師との「共通の基礎課程」を設ける検討が行われましたが、4年後の現在も具体案はまったく示されておらず、事実上立ち消えになったと言えます。

次に、「プラン」中の福祉専門職についての記載をみると、「社会福祉士」とソーシャルワーカー一般の記載はない反面、スクールソーシャルワーカーの記載は4か所もありました。特に「プラン」の本文12頁の(課題を抱えた子供たちへの学びの機会の提供)の冒頭では、「特別な配慮を必要とする児童生徒のための学校指導体制の確保、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの配置など教育相談機能の強化に取り組む」と書かれました。政府文書の最上位にある「閣議決定」のしかも本文にスクールソーシャルワーカーの役割が明記されたのはこれが初めてであり、画期的と言えます。さらに43頁の「付表」には、スクールソーシャルワーカー(SSW)を2015年度の2,247人から2019年度の10,000人へと5年で4倍化する数値目標も示されました。ただし、その後、これの具体化はほとんど進んでいないようです。

さらに精神保健福祉士については、57頁の付表、「介護離職ゼロの実現」のための「対応策」の「⑧障害者、難病患者、がん患者等の活躍支援(その1)」の「具体的な対応策」の最後(4番目)に「精神障害者等の職業訓練を支援するため、職業訓練校に精神保健福祉士を配置してそのサポートを受けながら職業訓練を受講できるようにするなど受入体制を強化する」と書かれました。これは精神障害者等の職業訓練校に限定した記述ですが、「新福祉ビジョン」が精神保健福祉士にまったく言及していなかったことと比べると、「閣議決定」に書き込まれたこと、しかも精神保健福祉士の職域拡大が示されたことは大きな前進と言えます。ただし、その後、これの具体化もほとんど進んでいないようです。

福祉関係者が「プラン」でもう1つ注目すべきことは、本文16頁(4.「介護離職ゼロ」に向けた取組の方向)の最後に「(4)地域共生社会の実現」が掲げられ、次のように書かれたことです。

<子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現する。このため、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する。また、寄附文化を醸成し、NPO との連携や民間資金の活用を図る>。

「共生社会」は福祉関係者にはなじみ深い用語ですが、閣議決定が「地域共生社会」という用語を用いたのはこれが初めてで、しかも現在に至るまで、これが地域共生社会の唯一の公式の定義・説明とされています。「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」にも、地域共生社会の法的定義は書かれていません。この点は、地域包括ケアシステムについては、2013年の社会保障改革プログラム法と2014年の医療介護総合確保推進法で法的定義が与えられたのと大きく異なります。

「プラン」を受けて、厚生労働省は2016年7月に「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」を立ち上げました。当時、福祉研究者・福祉業界では、この「『我が事・丸ごと』地域共生社会」が大人気でしたが、現在は(正確に言えば塩崎恭久厚生労働大臣が2017年8月に退任してからは)、この用語は厚生労働省内では全く使われておらず、「厚生労働省内死語」になっています。実は、閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」で用いられたのは「地域共生社会」だけで、「我が事・丸ごと」という枕詞は塩崎大臣が独自に個人プレー的につけたものです。厚生労働省の「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」サイトにも、第1回会議(2016年7月15日)以降の資料は掲載されていません(この点は本講演前に再確認しました)。

3.地域力強化検討会「最終とりまとめ」はソーシャルワーカーの役割を高く評価したが… (3)

第3に、地域強化力検討会(座長・原田正樹氏)が2017年10月に発表した「最終とりまとめ」のソーシャルワーカーについての記述を検討します。この検討会は「プラン」で示された「地域共生社会の実現」について具体的に検討するために設置されました。この文書は、厚生労働省関係の公式文書で、唯一、ソーシャルワーカーの役割を包括的に示した記念碑的文書であり、ソーシャルワーカーの「必読文献」と言えます。

私はこの文書が発表された時、次の3点に注目しました。①リアルな地域観と新しい自立観を提起した、②ソーシャルワーカーの役割を高く評価した、③高齢者に限定しない地域包括ケアシステムを提起した。以下、②について詳しく述べます。

実は地域力強化検討会の「中間とりまとめ」(2016年12月)は「ソーシャルワークの機能」は重視していましたが、ソーシャルワーカーにはほとんど言及していませんでした(2回のみ)。それに対して「最終とりまとめ」では、ソーシャルワーカーについての記述が11か所もあり、そのうち9か所が各論の1で集中的に書かれています。その記述はきわめて具体的で、社会福祉関係者以外の読者が読んでもソーシャルワーカーの役割・働きがイメージされるような工夫がなされていました。

検討会の性格上、記述のほとんどは、地域(力強化)との関わりで書かれていますが、福祉領域の検討会の文書としては珍しく、医療分野でのソーシャルワーカーの役割についても、以下の記述があります。「在宅医療を行っている診療所や地域医療を担っている病院に配置されているソーシャルワーカーなどが、患者の療養中の悩み事の相談支援や退院調整のみならず、地域の様々な相談を受け止めていくという方法」(17頁)。私はこれからの地域包括ケアと福祉改革の主戦場は「地域」であると考え、医療ソーシャルワーカーを含めたソーシャルワーカーが「地域に積極的に出る」よう提唱していたので、この記述に大いに共感しました(5)。

さらに「最終とりまとめ」では、「中間とりまとめ」で「包括的な相談支援を担える人材」の機能とぼかして表現されていたものが、「ソーシャルワークの5つの機能」と踏み込んで再掲されました(16頁):「制度横断的な知識、アセスメント力、支援計画の策定・評価、関係者の連携・調整、資源開発」。厚生労働省の委員会や検討会の報告で、ソーシャルワーカーの役割がこれほど包括的に論じられたのは初めてであり、今後はこの定式化が「事実上の標準」(de facto standard)になると思います。それだけに、ソーシャルワーカーの養成団体(日本ソーシャルワーク教育学校連盟及び加盟校)や専門職団体は、今後、この5つの機能・能力を身につけたソーシャルワーカー養成・育成のための改革を積極的に進める必要があるし、それなくして今後ソーシャルワーカーが「生き延びる」ことは困難と思いました。

私がもう一つ強調したいことは、「最終とりまとめ」がソーシャルワーカーの重視に対応して、「専門職」の役割と「多職種連携」も強調していることです。後者は「最終とりまとめ」で初めて取り上げられました。私は、次の提起が一番重要と思います:「多職種連携に当たっては、保健・医療・福祉に限らず、雇用・就労、住まい、司法、教育、産業などの分野にも広がりが見られていることに留意する必要がある」(13頁)。

他面、「最終とりまとめ」は、社会福祉士、精神保健福祉士等の具体的職種名は書いていません。このことは「最終とりまとめ」、ひいては厚生労働省(社会・援護局)が、ソーシャルワーカーの「機能」とソーシャルワーカーの「国家資格」(社会福祉士・精神保健福祉士)を峻別していることを意味しています。後述するように、私は、この区別自体は妥当だと思っています。また、この峻別は、日本社会福祉士会が長年求めている社会福祉士資格の業務独占化が不可能であることも意味しています。

4.地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」にはソーシャルワーカーの記述がない!? (4)

4番目に、改正社会福祉法の出発点になった地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」(2019年12月)について検討します。私は、「最終とりまとめ」が、それまで曖昧だった地域共生社会の「理念と射程」を明確にし、「福祉政策の新たなアプローチ」・「市町村における包括的な支援体制の整備」を提起した点は高く評価しています。しかし、包括的な支援体制を中心的に担うソーシャルワーカーにまったく言及していないことに強い疑問も持ちました。

「最終とりまとめ」のⅣ「市町村における包括的な支援体制の整備促進のための基盤」の1は「人材の育成や確保」で、その(1)が「専門職に求められる資質」です。そこで書かれている資質は内容的には、ほとんどソーシャルワーカーの資質と理解できます。例えば、「断らない相談支援においては、本人や家族を包括的に受け止めるためのインテークの方法や、課題を解きほぐすアセスメントの視点、さらに市町村全体でチームによる支援を行うための総合的調整等に関する手法・知識が求められる」と書かれていますが、このような手法・知識を持っているのはソーシャルワーカーです(24頁)。

しかし、驚いたことに、Ⅳでは、社会福祉士や精神保健福祉士という個別資格名だけでなく、「ソーシャルワーカー」という総称もまったく使っていません。「最終とりまとめ」全体も、「専門職」という用語は19回も使っている反面、「ソーシャルワーカー」という表現は一度も使っていません。実は、2019年11月18日に公開された「最終とりまとめ(素案)」は「福祉専門職」という表現を1回使っていたのですが、それも削除されました。

この点は、上述したように、地域力強化検討会「最終とりまとめ」が「ソーシャルワークの5つの機能」を明記するなど、ソーシャルワーク、ソーシャルワーカーの役割を強調していたのと対照的です。地域共生社会推進検討会の構成員19人のうち6人は地域力強化検討会の構成員でもあっただけに、この「断絶」・「後退」は私には理解できません。

公平のために言えば、上述したように、5頁には「保健医療福祉等の専門職による対人支援」という表現が1回使われているし、私も「最終とりまとめ」で書かれている様々な「支援」をソーシャルワーカーだけでなく、ケアマネージャー、保健師・看護師等、地域医療・地域福祉の様々な専門職が担っていることはよく知っています。しかし、「福祉の政策領域における地域共生社会」づくり(3頁)、「福祉政策の新たなアプローチ」(30頁)で「福祉の対人支援」(30頁)を中心的に担う人材はソーシャルワーカーであると考えます。

私は「最終とりまとめ」を読んだ時、ソーシャルワーカーという職種名を明記するとそれの配置やそのための予算確保が求められるため、市町村関係者が難色を示したのかもしれないと考えましたが、深刻な課題を抱えた人々にソーシャルワークの専門的手法・知識がない支援者が関わることには大きな危険があると思います。

なお、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(ソ教連。会長・白澤政和国際医療福祉大学教授)は、「最終とりまとめ」公表直後の2019年12月27日に、「専門職による対人支援」・3つの機能をソーシャルワーカーが担うと解釈し、それに沿った社会福祉士や精神保健福祉士のソーシャルワーカー養成を進めるとの「声明」を発表しました。私は、このような機敏で前向きな対応は大変好ましいと思いました。それに対して、日本社会福祉士会が見解を発表したのは「最終とりまとめ」公表後1か月以上経った本年1月30日であり、しかもソーシャルワーカー専門職の記載がないことには触れませんでした。他のソーシャルワーカー団体は「最終とりまとめ」に対する見解を発表しませんでした。

5.改正社会福祉法の参議院附帯決議に「社会福祉士や精神保健福祉士の活用」が明記 (4)

5番目に、本年6月に成立した改正社会福祉法の参議院附帯決議に、重層的支援体制整備事業に「社会福祉士や精神保健福祉士の活用」が含まれた意義について述べます。

その前に、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」(2021年4月施行)の簡単なおさらいをします。本法は、社会福祉法改正を中心に11本の法改正を一括しており、その中心は市町村における包括的な支援体制の整備を行う「重層的支援体制整備事業の創設及びその財政支援」ですが、それ以外に、社会福祉連携推進法人制度の創設や、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務づけの経過措置の5年間の延長等が含まれています。

私は、本法に対する参議院の「附帯決議」(全6項)の第1項の最後に、重層的支援体制整備「事業を実施するに当たっては、社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努めること」と記載されたことに注目しました。私の知る限り、地域共生社会関係の公式文書に両国家資格が明記されたのはこれが初めてです。本法の衆議院の附帯決議にはこの内容は含まれておらず、谷内繁社会・援護局長は衆議院厚生労働委員会で、重層的支援を行う職種について「社会福祉士、保健師等の専門職種による対応がベースになる」と答弁していました。つまり、この時点では、精神保健福祉士は想定されていませんでした。「等」には社会福祉主事が想定されていたようです。

それだけに、参議院附帯決議に、「社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努める」と「等」抜きで記載されたことは画期的で、これはソーシャルケアサービス研究協議会(代表・白澤政和氏)が与野党の国会議員に対してねばり強い陳情を行った成果と言われています。

今後は、ソーシャルワーカー団体が、この附帯決議を武器にして、重層的支援体制整備事業で社会福祉士や精神保健福祉士の活用が進むよう、市町村に積極的に働きかけることが期待されます。

おわりに-厚生労働省、社会・援護局はなぜ社会福祉士資格について<冷たい>のか?

以上、2015年の「新福祉ビジョン」から改正社会福祉法に至るまで、社会福祉士・精神保健福祉士がいかに位置づけられてこなかったかを跡付けるとともに、改正社会福祉法の参議院附帯決議の意義について述べてきました。

最後に、私が、この間ずっと抱いている率直な疑問-厚生労働省、社会・援護局はなぜ社会福祉士資格について<冷たい>のか?-について、私見を述べます。

私の<冷たさ>への気づき
まず、私の<冷たさ>への気づきについて述べます。私がこのことを最初に感じたのは、「新福祉ビジョン」で、社会福祉士について、「専門的な知識及び技術をもって、福祉に関する相談に応じ、助言、指導、関係者との連絡・調整その他の援助を行う者として位置づけられている社会福祉士については、複合的な課題を抱える者」=実際にこれらの業務を行っているとは明示しない、突き放した表現が用いられていたことです。私はこれを読んだ時「カルチャーショック」を受けました。というのは、医療職では、このような記述は考えられないからです。例えば、看護師について「『療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者』として位置づけられている看護師」と書くことです。社会福祉士が制度化された直後ならともかく、制度化されて30年近く経ってもこう書かれることは、厚生労働省(社会・援護局)の社会福祉士に対する認知度・位置づけの低さを象徴していると感じました。

地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」を読んだ時は、それに社会福祉士や精神保健福祉士、ソーシャルワーカーの記載がないのは、ソーシャルワーカーの採用で負担増になる市町村が反対したため、またはソーシャルワーカーの役割を軽視している研究者の構成員が難色を示したためと思いました。しかし、その後、社会・援護局(の担当者)自体が、ソーシャルワーカー等の記載にきわめて消極的であることを知りました。改正社会福祉法の参議院附帯決議についても、社会・援護局(の担当者)は「社会福祉士や精神保健福祉士の活用」と職種を限定した表現にすることに消極的だったとも聞いています。

厚生労働省、社会・援護局が社会福祉士資格について<冷たい>理由
そこで、厚生労働省関係者または同省社会・援護局の内情を熟知している関係者の友人に、<冷たい>理由について非公式に問い合わせました。以下は、その回答を踏まえた私なりのまとめです。

そもそも1987年に成立した社会福祉士及び介護福祉士法の主目的は介護福祉士の制度化で、社会福祉士の制度化は副次的でした。2007年の同法改正も主眼は介護福祉士でした。

残念ながら社会・援護局としてのソーシャルワーカーの位置づけについての明確な方針はなく、時々に設置される検討会の構成員と事務担当者のスタンスによって、報告書のソーシャルワーカーの位置づけが変わるようです。その一端は、地域力強化検討会「最終とりまとめ」がソーシャルワーカーの役割を強調していたのに対して、地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」がソーシャルワーカーという用語自体を抹消していたことからもうかがえます。

社会・援護局の各課の内情も複雑です。例えば、福祉専門職を担当する福祉基盤課福祉人材確保対策室は、介護人材の確保にしか関心がなく、しかも福祉基盤課は、社会福祉法人経営団体の意向に沿いやすく、同団体は有資格者採用に伴う負担増に消極的なようです。地域共生社会を担当するのは「地域福祉課」ですが、担当者は住民参加でそれを進める意向が強く(誰でもよいので、地域福祉・地域共生社会の担い手を増やしたい)、ソーシャルワーカーの役割強化には消極的なようです。

社会・援護局及び各課・室の以上の認識の大前提として、社会福祉士の役割について肯定的に理解している官僚は、残念ながらごく少ないようです。

「冷たさ」にはソーシャルワーカー団体とソーシャルワーク研究者側にも責任がある
ただし、私は厚生労働省、社会・援護局の「冷たさ」にはソーシャルワーカー団体とソーシャルワーク研究者の側にも責任があると思っています。それは以下の2つです。

①ソーシャルワーカーの専門職団体が、ソーシャルワーカーに関わる厚生労働省の時々の福祉施策や各種審議会・検討会の文書について機敏な態度表明を怠るだけでなく、専門職の役割についての「説明責任」を十分に果たしてこなかった。

②専門職団体または研究者による、ソーシャルワーカーの「役割」やソーシャルワークの「効果」についての実証研究(特に量的研究・「見える化」)が決定的に不足している。この点について、ある厚生労働省OBは、そのものズバリ以下のように述べています。「役人は目に見えるものしか評価できません。専門職として効果を見える形で示さない限り、役人は理解できません」。

これら①・②については、日本医師会等を中心とした医療専門職団体、及び医療政策研究者と雲泥の差があると言わざるを得ません。

②について、少し補足します。私の長年の医療政策についての経験に基づけば、政策に影響を与えられるのは量的研究で、この点に限れば「質的研究」は無力と言えます。もっと具体的に言えば、量的研究のうち政策に役立つのはクロス表等を用いた、誰でも容易に理解できる研究であり、多変量解析を用いた高度な量的研究は現実の政策形成にはほとんど役立ちません。理由は簡単で、高度な手法を用いた難解な研究は政策担当者が理解できないからです。量的研究以外にも、先駆的活動をしている団体・個人の実践報告=「見える化」は有効です。なお、私は学術研究としての質的研究の意義は否定しませんが、私の指導している大学院生や若手研究者には「混合研究法」(量的研究と質的研究の併用・統合)を推奨している。

最後の最後に、私が注目・期待している最近の新しい動き-日本ソーシャルワーカー連盟とソ教連との2つの「共同声明」-について述べます。

1つは、上述した参議院附帯決議に対する両団体の共同声明(6月12日)です。これは附帯決議がなされた6月4日のわずか8日後に公表され、内容も大変良くまとまっていると感じました。もう1つは、生活保護基準引き下げを巡る訴訟の名古屋地裁判決についての両団体の共同声明(7月17日)です。私はこの内容に異論はありませんが、6月25日の判決後、3週間も経ってからの発表では「スピード感」に欠けると思います。

今後も、日本ソーシャルワーカー連盟がソ教連と共同して、政府・厚生労働省等の政策文書に対する見解を機敏に発信すると共に、ソーシャルワークの効果やソーシャルワーカーの役割についての、量的研究を中心とした調査・研究を積極的に行うことを期待しています。

文献
(1)二木立『地域包括ケアと福祉改革』勁草書房,2017,第2章第1節「厚労省プロジェクトチーム『新福祉ビジョン』をどう読むか」(56-67頁)。
(2)二木 立『地域包括ケアと福祉改革』勁草書房,2017,第2章第2節「『ニッポン一億総活躍プラン』と『地域共生社会実現本部を複眼的に読む」(68-79頁)。
(3)二木立『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』勁草書房,2019,第2章第1節「『地域力強化検討会最終とりまとめ』を複眼的に読む-ソーシャルワーカーの役割を中心に」(50-59頁)。
(4)二木立『コロナ危機後の医療・社会保障改革』勁草書房,2020年9月(印刷中),第3章第4節「地域共生社会推進検討会『最終とりまとめ』を複眼的に読む」。
(5)二木 立「近年の医療・福祉改革はソーシャルワーカーにとって好機か?危機か?」『医療と福祉』102号、51巻2号:10-13頁(文献(3):59-67頁)。