国は、2013 年から 3 年間で、生活保護費のうち食費などに充てる生活扶助費を年間670 億円引き下げました(平均 6.5%、最大10%)。生活保護で暮らす 1,000 人以上の原告と約 300 人の弁護団は、その生活保護費減額の取消しを求める訴訟を全国 29 の地方裁判所で行っています。

この度 2020 年 6 月 25 日名古屋地方裁判所は、初の判決として、原告らの請求を全面的に棄却しました。角谷昌毅裁判長は、判決において「生活保護費の削減などを内容とする自民党の政策は、国民感情や国の財政事情を踏まえたものであって、厚生労働大臣が、生活扶助基準を改定するに当たり、これらの事情を考慮することができる」としました。また、「厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって社会保障審議会等の専門家の検討を経ることを義務付ける法令上の根拠は見当たらず」とし、「専門家の検討を経ていないことをもって直ちに生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量権が制約されるということはできない」としました。

生活保護基準は、憲法25条が規定する生存権保障の理念を具現化するものであり、また生活保護で暮らす人々が憲法 13 条に規定する幸福追求権の実現に向けた暮らしを送るためにも、その妥当性が的確に検証され国民的な合意の手続きを経て、客観的で測定可能な根拠に立脚しているべきです。それにもかかわらず、その生活の基盤となる生活保護基準が、社会保障審議会生活保護基準部会等の専門家の検討を経ずとも厚生労働大臣の裁量が制約されず、かつ「国民感情や国の財政事情」という、不安定かつ不透明な基準で容認されると、社会的弱者や生活困窮者にとって、絶えず減額の恐れを抱きながら不安定な生活を余儀なくされるとともに、国の財政事情の名の下に減額改定が繰り返されれば、貧困の連鎖が広がり続けることになり、格差の拡大につながります。

また、生活保護基準は、住民税の非課税限度額や就学援助の対象者等を決める際の基準であり、医療・障害サービスの減免区分に影響するなど社会的弱者や生活困窮者支援の基準とも連動しています。そして、コロナ禍による経済活動停滞による失業者の増加は著しく、生活保護基準が不安定かつ不透明な基準で容認されるのならば社会的弱者の切り捨てにつながりかねない状況であり、今回の名古屋地方裁判所における判決は到底容認できるものではありません。

私たち、日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)及び日本ソーシャルワーク教育学校連盟は、社会的弱者の権利擁護と社会正義の実現をはじめ、地域共生社会における生活困窮者支援に取り組む中で、リーマンショックを上回るコロナ禍による経済活動の低迷による失業者や自殺者の増加を懸念しており、生活困窮者支援法・生活保護法の申請による社会的救済が必要と認識しています。今後の判決においてこの声明文の趣旨が反映され、三権分立のなかで憲法第 25 条が規定する生存権保障の理念が体現される司法判断が適切になされるよう強く望みます。

2020年7月17日

日本ソーシャルワーカー連盟
公益社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 田村綾子
公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島善久
公益社団法人日本医療社会福祉協会 会長 早坂由美子
特定非営利活動法人日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本民夫
一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟 会長 白澤政和