2019年世界ソーシャルワークデー記念イベントのシンポジウムが、日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)主催、国際ソーシャルワーク研究会共催で、3月23日(土)13時30分から16時40分まで、日本女子大学目白キャンパス内の新泉山館1階大会議室で開催された。シンポジウムのテーマは「外国人労働者の権利とソーシャルワーク」で、JFSW国際委員会委員長で日本女子大学教授の木村真理子氏の司会進行で4人のシンポジストを迎えて討論が行われた。
以下、シンポジウムでの発言をまとめてみた。
まず、木村委員長から、本日のシンポジストの報告を通して、日本の外国人労働者に対する政策は、日本をあまり心地よい国にすると外国人が長期に居ついてしまって、これは困ったことになるという考え方が透けてみえる、という指摘があった。外国人労働者を受け入れるということは、労働者本人だけでなく、新たに形成される家族、日本で生まれる子どもたちの将来にまで影響をおよぼす。子どもたちは、日本社会を日本人とともに築く人材であるということを考えると、日本人も外国人も共に日本のあり方について考え合う機会を拡大することが求められるのではないだろうか。労働者の大幅受け入れにあたり、政府は、労働者の移入、技術的支援によって、日本社会が抱える労働力問題が解決できるかのような印象を与えている。日本語研修の充実、情報提供機関の設置場所の増加等、表面的な技術で問題解決には事足りると考えることに対して、将来にまで影響を及ぼす問題を掘り下げて対応していないとの印象を与える。この状況に対応する上で変化に伴って生じる社会的支援や精神保健ニーズなどに着眼する必要がある、といった問題提起があった。
中村ノーマンさん(多文化活動連絡協議会代表)さんは、子どもの学習支援を通して、子どもたちは将来の日本の資源となる人々であることに日本の政府も国民も気づくべきである、と提起した。学習支援の対象となる子どもと家族は、経済格差にあえいでおり、日本という階層社会で、生活困窮者は、自身の声を政策に反映させる機会を持たない。幼少期の教育と言語習得、日本社会での人々との関係は、子どもの将来に大きな影響を与える鍵であることを意味すると主張した。
ソーシャルワーク専門職の役割は、単に社会や周辺との問題が生じることなく処理できるような画一的な選択肢をサービス利用者に提供することではない。個別のそれぞれの人々に対して、一緒に考え、耳を傾け、その人にとって最もよい選択ができる支援を、将来を見据えて、提供するのが、専門職の役割ではないか。言語がわからず、不安を抱えている人にとって、簡単にその場しのぎの解決策を提供することが、専門職の役割ではないと思う、と発言した。
フランク・オカンポスさん(野の花の家ファミリーセンターヴィオラソーシャルワーカー)は、児童家庭支援センターでソーシャルワーカーとして働いており、日本語が十分話せない不安を抱えている女性たちや子どもたちが、相談支援の場面や、ソーシャルワーカーとの関係を通して、どのようにエンパワーしてゆくかが課題である、と発言した。そのために、ソーシャルワーカーができることは、その人の立場に立って、最良の選択ができるように支援することである。十分な情報提供や選択肢を相手に伝える。自分の将来を思い描くことができるように当事者に、十分な情報を本人が理解できる形で提供し、信頼関係に立って、その人が人生の方向を選択してゆく支援ができるかにかかっている。
李寒櫻(リー・ハンイン)さん(日本女子大学社会福祉学科博士課程学生)の報告では、台湾政府は2000年代初頭には、介護人材の不足に対応すべく政策を転換して、外国人介護人材を積極的に導入し、課題を抱えつつも、職場での外国籍の半専門的介護人材と台湾籍のスタッフとの関係を模索する状況を蓄積している、との説明があった。台湾の外国人介護労働者の教育背景は高卒以下が大半を占めており、介護現場は、比較的低学歴、半専門職で構成される外国人介護人材の状況がある。こうした状況で、介護職場で、外国人人材がやりがいを感じるかどうかは、職場での介護の質や労働意欲に影響を与える。職場で台湾籍のスタッフと、外国人スタッフのコミュニケーションの向上、上司の理解、職場内での研修の充実は、外国人の職場定着に影響を与える。一方、施設外での研修等の機会のないのが現状である。外国人の介護人材の労働状況や処遇に伴う課題がないわけではないが、上記の要因や状況は日本の近未来を考える上での示唆を与えると思う。
方こすもさん(母子生活支援施設カサ・デ・サンタマリア相談員)は、韓国に一定期間在住し、勤務した経験をもとに、韓国の多文化支援センターの活動や外国人受け入れの政策動向について話していただいた。韓国は、農村の嫁不足、女性の高学歴化に伴う少子化傾向などの深刻化を憂慮した政府が、多文化家族への支援を積極的に行う対策を導入してきた。外国籍の人々を、積極的に韓国の市民として受け入れる道を拓いている状況とその受け入れ比率と比較し、日本の外国人の受け入れ比率はむしろ低率であることは統計からも明らかである。韓国政府は、外国人受け入れ政策は少子化対策に対応するものであることは明確にしている。このことは、外国人が韓国に滞在していればおのずとサービスの対象となるのではないということに気づかされる。しかし、異なる文化をもつ人々が韓国に定着し、家族を形成し、未来の国を形成するうえで重要な部分を構成する人材となるとの意識は明確に韓国の政策に位置付けられている点が特徴的である。こうした政策導入と韓国市民の経験の延長上に、韓国の人口構成に影響を与える伴侶となる外国籍の人々の受け入れがあり、韓国社会の多文化傾向の促進が見込まれている。また、韓国が大陸と陸続きであり、これまで様々な国々の影響があった歴史的経緯も、韓国のこうした政策と無関係ではないようだ。しかし、外国人の受け入れが、韓国政府の国の少子高齢化に対応する政策という明確な意図のもとに存在しているということも明らかな事実であるといえる。
最後のコメントで、中村ノーマンさんがまとめられたように、外国人労働者の権利を護ることはソーシャルワーカーだけでは解決できない。 成功例や、具体策を提言しつつ、他の職種と協働して行くことが重要である、と気づかされるシンポジウムであった。
(文責:国際委員会)